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エンプロイーエクスペリエンス

Employee Experience

エンプロイーエクスペリエンス(EX)とは?企業における意味・定義、考え方と活かし方

エンプロイーエクスペリエンス(EX)とは?意味・定義

エンプロイーエクスペリエンス(Employee Experience、EX)とは、「従業員体験」のこと。企業に在籍する従業員が価値を感じる体験を組織として提供することを通して、エンプロイーエンゲージメントやロイヤルティを向上させようとする考え方を指します。

エンプロイーエクスペリエンスの考え方を取り入れることで、どのような価値をもたらすことができるか

「組織における従業員の体験」(=エンプロイーエクスペリエンス)の向上・良化を図ることで、主に次の3つの価値を追求することができます。

1. 事業成長への貢献

エンプロイーエクスペリエンスの取り組みは、サービス開発や顧客への営業、マーケティング等といった売上に直結する業務と異なり、それ自体が売上を創出するものではありません。
エンプロイーエクスペリエンスの役割は、組織として持続的に利益を生み出すための要として、組織成長を通じて事業成長に貢献することです。このモデルを簡潔に図で説明すると、次のとおりです。

エンプロイーエクスペリエンス(EX)とは?企業における意味・定義、考え方と活かし方

※SVPCとは:サービスにおけるバリュー・プロフィットチェーンをマネジメントすることを指します

エンプロイーエクスペリエンスがどのようなものであるかは、従業員の業務の生産性や品質、顧客対応の仕方などの業務における振る舞い全般に影響を与えます。
個々の従業員のエンゲージメントが高まると、従業員は「自分がこの組織・企業で感じている素晴らしい体験を顧客にも感じてもらいたい」と自発的に感じるようになり、より価値のある体験を顧客に対しても提供しようとする意識変化が期待できます。
その結果としてカスタマーエクスペリエンス(顧客体験)が向上・改善し、LTV(ライフタイムバリュー)の増大等を通して利益増加につながる、という正の循環が生まれやすくなります。

※「LTV(ライフタイムバリュー)」とは、一人の顧客が一定期間を通じて企業にもたらすトータルの売上や利益等の価値のことを指します。

2. 採用への貢献

エンプロイーエクスペリエンスの向上は、採用にも良い影響をもたらします。

前提として、これまでの終身雇用制度や新卒大量採用の企業文化は既に崩壊しており、従業員が自分自身のライフスタイルやキャリアプランに合わせて転職や独立をすることは、ごく一般的になっています。従業員個人としてのキャリア選択の幅も広がっており、人材の流動性は高まっていると言えます。

終身雇用制度が主流で「企業が買い手市場だった時代」は、企業が求職者・従業員を選ぶ立場でしたが、「求職者の選択肢が増えた令和の時代」では従業員が企業を選ぶ立場となっており、企業は自社の採用したい人材に選ばれる工夫を凝らすことが必要不可欠です。

SNSの普及などにより企業における従業員に対する考え方や待遇といった情報の透明性も高まっており、企業の良い面も悪い面も、ともに求職者に伝わりやすくなっています。中でも「労働環境の悪さ」や「従業員としての満足度の低さ」は、とりわけ社外に情報が出てしまいやすくなっています。

採用候補者に向けての情報発信も重要ではありますが、「選ばれる企業」になるためには、社内の従業員にも目を向けて、彼らが納得感を持って働ける環境作りが大切であり、エンプロイーエクスペリエンスの考え方を取り入れて組織作りを行うことは、企業における採用の現場では特に重要なトピックとなっています。

3. 人材定着(退職率)への貢献

エンプロイーエクスペリエンスがもたらす価値の3つ目としては、既存の従業員の定着への貢献が挙げられます。
従業員が企業を離れる際の退職理由には、「昔から興味のあった領域で、起業に挑戦したい」といった前向きなものもあれば、「入社前に聞いていた労働環境やカルチャーが、実際に入社したら全く異なる状態になっていて、事前の期待との乖離があった」など、防ぐことのできたものもあります。
特に入社前後の期待値のギャップによる早期退職は、採用や育成のコストに加えて多大な時間を無駄にしてしまうため、企業にとっても従業員にとっても互いに大きな損失になります。

このような、「もったいない」退職を減らし、自社にマッチした人材の定着率を上げるための鍵になるのは、エンプロイーエクスペリエンスの向上・担保に組織として取り組み、従業員との期待値のすりあわせをすることを通して、従業員のやりがいや満足度を向上させていくことです。

エンプロイーエクスペリエンスで重要な期待の調整(Expectation Alignment)とは

さて、エンプロイーエクスペリエンスに深く関連する「期待値のすり合わせ」とは、どのようなものでしょうか。
従業員が転職の応募時点に抱くその企業のイメージや、雇用契約の内容、上司や同僚とのコミュニケーションなどを通じて、従業員は企業に対して様々な「期待」を持ちます。
その期待に企業がどのように対応するか(=どのように期待の調整/Expectation Alignmentを行うか)が、エンプロイーエクスペリエンスを大きく左右することがこれまでの研究によって明らかになっています。

ここでは、「期待値の調整」を行う際に特に深く連関する、従業員と企業との間の3種類の「契約」を解説します。
ここでいう「契約」とは、平たく言えば、企業と従業員がその入社に際して明示的・暗黙的を問わず交わしている「約束」のことです。

エンプロイーエクスペリエンス(EX)とは?企業における意味・定義、考え方と活かし方

1. 「ブランド契約」

ブランド契約とは、企業の広報・マーケティング活動を通じて入社前の従業員が抱く企業イメージのことです。このイメージは広告のキャッチコピーやSNS発信、ブランドの世界観などに触れて構築されます。

2. 「取引的契約」

取引的契約とは、募集要項、就業規則、福利厚生、給与など、従業員と企業双方の合意のもとに成立する明示的な契約のことです。企業が契約をないがしろにしたり、過度に低い条件で設定しない限り、エンゲージメントに大きな影響を与えません。

3. 「心理的契約」

心理的契約とは、企業と従業員の双方が互いに対して抱く期待や責任のことです。
メッセージや取引内容が明確なブランド契約と取引的契約とは異なり、心理的契約は暗黙的なのが特徴です。
双方が確認のうえで合意しているわけではなく、互いが相手に対して主観的に抱いている感覚のため、概してそれぞれで解釈が異なる場合の多いものになります。
この「心理的契約」こそが、エンプロイーエクスペリエンスに与える影響の最も大きいものであると言えます。心理的契約が守られれば、従業員のエンゲージメントが醸成され、良いエンプロイーエクスペリエンスの向上・担保につながるのです。

エンプロイーエクスペリエンスを左右する真実の瞬間(Moment of Truth、MoT)

ここまでの説明の通り、企業が従業員に対して良いエンプロイーエクスペリエンスを提供するために重要なことは、企業に対して従業員の抱く期待値や心理的契約を適切に調整したうえでこれを守ることで、従業員のエンゲージメントをいかに向上させられるかという点にあります。

そして、従業員エンゲージメントの上昇・下降に特に大きな影響を与えるポイントを「真実の瞬間」といい、真実の瞬間とは、従業員が組織に対する意味付与(センスメイキング)が行われるきっかけとなる瞬間のことを示します。
なお「真実の瞬間」は、スウェーデンの経営学者リチャード・ノーマンが提唱した概念で、言葉の由来はスペイン語の闘牛用語にあり、スペイン語の”La hora de la verdad(真実の瞬間)“という「闘牛士が牛にとどめを刺す瞬間を表す言葉」からきています。
また「真実の瞬間」は、その英訳”Moment of Truth”を略して「MoT」と呼ばれます。企業が従業員の心理的契約を守った・守らなかった瞬間(MoT)に、企業に対する解釈や意味付けがされ、その結果としてエンゲージメントが上下するという考えが、エンプロイーエクスペリエンスを重視する観点からの捉え方となります。

エンプロイーエクスペリエンス(EX)とは?企業における意味・定義、考え方と活かし方

このMoTには、組織運営上、予期可能なものとそうでないものがあります。
大まかに分けて、「予期できるMoT」とは採用や人事評価の場面など、組織が継続して行う業務におけるMoTを指し、一方の「予期できないMoT」とは予期できるMoTに含まれないもの全般を指します。

予期できるMoTは、性質として継続的な業務に由来するものであるため、エンプロイージャーニーマップなどを使って整理することができます。
たとえば一例として、下記の図のように、入社前から入社後の従業員の体験を可視化し、各フェーズにおける理想状態や現状、施策を整理することで、予めMoTをデザインすることができます。

エンプロイーエクスペリエンス(EX)とは?企業における意味・定義、考え方と活かし方

一方、予期ができないMoTの具体例としては、事業撤退や顧客からの突発的なクレーム、組織内でのハラスメントの発生などが挙げられます。
意図せず突発的に発生してしまうケースが多いため、未然に防ぐのは困難であるものの、危機が発生した場合の対応や意思決定次第では、そのMoTを従業員にとって価値ある体験に変えることで、むしろエンプロイーエクスペリエンスを向上させ、エンゲージメントを高めることもできます。

予期不可能なMoTのよくある例を一覧で示すと、次のようなものとなります。

エンプロイーエクスペリエンス(EX)とは?企業における意味・定義、考え方と活かし方

MoTの取扱いによる3つの影響

この真実の瞬間、MoTをどう扱うかによって、エンプロイーエクスペリエンスに与える影響が大きく異なってきます。ここでは、MoTを良いもの/良い体験にできるか、悪いもの/悪い体験にしてしまうかということがもたらす3つの影響を解説します。

1. 「契約」の強化

組織において、事業撤退やアクシデント発生のような危機的な状況(=予期できないMoT)が発生しても、企業が適切な判断と意思決定による優れた対応ができると、そのMoTを通じて、むしろ企業に対する従業員からの信頼が強化することができます。従業員からの企業に対する信頼や期待が強まれば、組織のエンゲージメントはポジティブに変化します。

2. 「契約」の破綻

逆に、従業員の期待に企業が応えられない場合、あるいは期待に応えられないことを把握しているにも関わらずその事実を隠すなど企業と従業員の間で期待の整合ができていない場合、その企業が従業員からの信頼を得ることは難しくなり、企業と従業員との間の心理的契約が破綻してしまうことになります。期待値の不整合は、企業への信頼や期待を毀損するエンゲージメントの低下の原因となります。

3. 「契約」の再構築

問題が発生した際に、従業員の期待に応える対応や、期待を超える意思決定がなされると、従業員と企業との心理的契約は再構築され、従業員は企業に対して新たな期待を抱くようになります。
ほか、企業が従業員に対して新たな役割や責任を与えることで、従業員の心理的契約が再構築されることも考えられます。

「契約」の破綻を防ぎ、強化と再構築ができるMoTをデザインしていくことが、良いエンプロイーエクスペリエンスを構築することにつながります。

まとめ

良いエンプロイーエクスペリエンスは、事業や組織の成長に影響を与えます。従業員は「心理的契約」、つまり自身の属する組織に対する期待と責任を抱えているため、その期待値の調整の仕方によって、従業員のエンゲージメントは上がりも下がりもするのです。この上下のきっかけとなるタイミングを「真実の瞬間(MoT)」と呼び、MOTを意図的にデザインすることがエンプロイーエクスペリエンス向上における重要な役割を果たします。

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